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【読書感想文】その2 ある奴隷少女に起こった出来事(ハリエット・アン・ジェイコブス)

読書感想文その2。 

ある奴隷少女に起こった出来事 (新潮文庫)

ある奴隷少女に起こった出来事 (新潮文庫)

 

毎年夏になると、新潮文庫とか角川文庫が「この夏オススメの本!」みたいな小冊子を本屋さんに置くじゃないですか。あれが子どものころから結構好きで。あれを本屋さんで見かけると「夏が来たな」って気分になるし、パラパラめくって次何読もうか決めるのが楽しい。

正直最近あの小冊子ちゃんと更新されてなくない?とは思うけど。名作だからってことなんだろうけど、『夜のピクニック』とか何年間も連続で見た覚えがあるぞ。

そんな中、珍しく新作と思って買ってきたのが『ある奴隷少女に起こった出来事』(ハリエット・アン・ジェイコブス、2016年、新潮文庫)。読みやすい文体なので、小学校高学年くらいの子だったら読めるかも。中身は子ども向けではないけど、それくらいの奴隷少女たちが当時実際に体験していた出来事でもあるので読まないで忌避するのはもったいないと思う。

 

【あらすじ】

ノースカロライナ州の奴隷として生まれたリンダ(偽名)は、母の主人だった女主人が亡くなったことでフリント家の奴隷として「相続」される。そこでフリント家の主人である医師に虐待を受け、性的虐待も含んできたため彼女はそこから逃れる方法として、他の白人男性の子どもを身ごもる。それがフリント氏に発覚し、リンダは子ども共々劣悪な環境であるプランテーションに送られそうになり、彼女は逃亡を決意する。

何年もの間、友人の家や祖母の家の屋根裏に潜伏した後、ついに北部に向けて脱出し、そこで置いてきた子どもたちとの再開を果たす。しかし逃げたはずの北部でも逃亡奴隷狩りや追ってくるフリント氏などに怯えながら過ごす日々を送ることになる。

 

【感想】

アメリカに子供の頃住んでいたことがあるので、学校の歴史の授業で奴隷制とそこから発生した南北戦争については勉強した。北部州に住んでいたので、Underground Railroad(地下鉄道 (秘密結社) - Wikipedia)と呼ばれる逃亡奴隷幇助網については学習もしたし、どちらかというと「南部州はあんなひどいことをしていたけど北部州の人たちは彼らを助けようとしていたんだよ」的なスタンスの学習だった気がする。

実際に読んでみると、南部州で行われていた奴隷制とその虐待は想像を絶するほど人権を無視しているし、せっかく逃げた北部でも小遣い稼ぎのための逃亡奴隷狩りで連れ戻されたりしてしまうなど、カナダまでたどり着けないと安住の土地なんてないんじゃないかと思える。本文で出てくる「どんなペンの力をもってしても、奴隷制によって作り出され、すべてを覆い尽くす堕落を十分に表現することはできない」は全くそのとおりだと思うし、160年後の私達が読んでもきっと真に奴隷制については理解できないんだろうとも思う。

ただ、だからといって「知りませんでした」で済まされることでもないと思うし、訳者あとがきにもある通り中高生の子たちに是非読んでほしい。どのようなひどい状況に置かれても、決して諦めなかったリンダの芯の強さを少しでも感じられたらいいと思う。

加えて、訳者である堀越ゆきさんのあとがきがとても良かった。このあとがきによって読む価値が段違いに上がっているとも思う。ぜひあとがきに書いてあることを読んで、自分の人生をどう切り開くか少しでも考えるきっかけになったらいいんじゃないかな。